継続の真の意味

伸びしろのある有段者シリーズ。前回は、数が全てを解決する、だから出来るだけ多くの問題に触れようという話をしました。まずは、習うより慣れろで、手を読む作業や、将棋の手筋を体に染み込ませて、実戦に活かしてほしいと思います。

では、数をこなして詰将棋や寄せ、凌ぎ、次の一手などの問題をスラスラ解けるようになった子は何を勉強すれば良いでしょうか?詰将棋で言えば、より長い手数の問題やより難解な問題を解く、のも一つの解だと思いますが、今日はそれとは違った視点で書きたいと思います。

(初段を目指す話ではなく、初段になった後の話です。)

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年末年始に読んだ本に、こんな話がありました。

平凡な人材を非凡に変えたものは何か。一つのことを飽きずに黙々と努める力、いわば今日一日を懸命に生きる力です。また、その一日を積み重ねていく継続の力です。すなわち継続が平凡を非凡に変えたのです。(中略)ただし、継続が大切だといっても、それが「同じことをくり返す」ことであってはなりません。継続と反復は違います。昨日と同じことを漫然とくり返すのではなく、今日よりは明日、明日よりは明後日と、少しずつでいいから、かならず改良や改善をつけ加えていくこと。そうした「創意工夫する心」が成功へ近づくスピードを加速させるのです。

「生き方」 稲森和夫著

この話を読んだ時、将棋の上達においてもそのまま当てはまる話だと思いました。言葉だけでは伝わりにくいと思うので、具体例を紹介します。

 

これは3手詰ハンドブックで出題されている詰将棋です。13銀 同桂 22金の3手詰です。

(1)早く、正確に解く

まずは、問題を解く早さ、正確さを磨いてほしいと思っています。1回目は30秒以内、2回目は20秒以内、3回目は10秒以内、という感じで数を重ねて練習していけば、気づけば見た瞬間に解けるようになっています。

そのような状態になれば、実戦で生じた3手詰を逃すことが少なくなると思います。

(2)逆さまにして解く

次に、本を逆さまにして攻め側ではなく玉側から見て詰みを読んでみましょう。同じ問題ですが、全く違った景色に見えるはずで、答えがわかるスピードも変わってくるはずです。これも、数を重ねれば、見た瞬間に解けるようになります。

そのような状態になれば、実戦で自玉の詰めろ(次に相手に手番が渡ったら詰まされる状態)がわかるようになります。

(3)変化をしっかり読む

同じ詰将棋の問題を何度も解くと、答えを覚えているという状態になると思います。そのレベルになったら、改めて変化をしっかり読んで確認してほしいと思います。理解するとは、正解の手順や意味だけでなく、不正解の手順や意味もわかる状態だと考えています。

この問題で言えば、初手13金は、同桂で32の銀が21の地点を守っており銀1枚では不詰。初手22金では13玉で上に逃がして不詰、初手21馬では同銀でも同玉でも攻めの種駒が無くなり不詰です。ここまで読んで初めて、初手13銀しか正解がないことがわかります。

実戦でも全く同じで、指した手の背景にある読みや意味だけでなく、指さなかった手の背景にある読みや意味も合わせてあると将棋が洗練されます

(4)持駒を隠して解く

(1)~(3)でも十分なのですが、さらに深くやりたい子は、持駒を隠して解く(持駒を推測しながら解く)という練習法もあります。

この問題であれば、持駒は金銀だけでなく、金歩、金香、金金、飛歩、飛香、飛銀、飛金、飛飛、つまり、前に利く駒1枚と横に利く駒1枚の計2枚があれば詰みます。(駒の組み合わせによっては、駒余りの詰み有)

さらに深く考えると、横に利く駒が1枚で、前に利く駒が無い場合にはどの持ち駒があれば詰むか、という発想もできます。その場合は、飛角桂があれば、24桂 同歩 34角 23香(他の合駒でも可) 22飛 13玉 23飛成 で詰みます。

このように、持駒を推測して詰手順を組み立てられるようになると、実戦の終盤で逆算ができるようになり終盤力がグンと向上します。例えば、桂馬1枚持てば相手玉が詰むから、桂馬が手に入りやすい手順に誘導しよう、のように未来から現在に向かって考られるようになります。

(5)盤上の駒、持ち駒の意味を考える

最後に、駒の配置の意味を考えてみましょう。いろいろな視点がありますが、ここでは、なぜ持ち駒が金銀(上記の通り、他の駒でも同じ手順で詰む)で、なぜ32銀が盤上に置かれているのか?について考えてみたいと思います。

なぜこの問題は、持駒が金歩でも金金でもなく、金銀なのか?一見、どの持駒の組み合わせでも同じ手順で詰むので、金銀の必然性は無いように思います。しかし、もう少し深く考えていくと、持駒が金歩や金金の場合には、32の銀があってもなくても同じ手順で詰むことがわかります。

なぜ盤上に32の銀があるのか?もし32の銀がなくて、持ち駒が金銀であれば、13銀 同桂 22金でも13金 同桂 21銀でも詰みます。つまり、32の銀は21銀を消して初手を13銀に限定しているんですね。

ここまで来ると、持駒の金銀、盤上の32の銀が正解手順を1つに限定している整合が取れた必然の配置になっていることがわかります。

前回も書きましたが、実戦でも駒の配置が一つ違えば(例えば、端歩の付き合いなど)同じ手順が成立したりしなくなったりして、そこが将棋の面白いところです。このように一つ一つの駒の配置の意味まで意識できると、精巧を極める将棋というゲームに感動し、ますます将棋を好きになると思います。

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使用するマス目と駒が限られる簡単な3手詰の問題でも視点を変えることでこんなにたくさん考えられる。であれば、81マスと40枚の駒を使用する定跡や実戦であればなおさらで、考えられることはほぼ無限にあります。

一つの物事をやり方や視点を変えて深く深く掘り下げていく。これが面白いと感じれば近い将来高段者以上になれるのは間違いありません。少しマニアックになりすぎましたが(笑)、へー、こんな練習方法や考え方もあるんだ!と興味を持ってくれる子が1人でも多くいるとうれしく思います。

※今回の話は、諏訪景子さん(同い年の観戦記者)の記事も参考にしています。合わせてご覧ください。