人を介する意味

11/3(火祝)にNHKBSで放送されたアナザーストーリーズでこの教室が紹介されました。2018年1月にこの教室を立ち上げて、間もなく3年になります。そのタイミングで取り上げていただいたのは、これまでの取り組みに対する一定の評価だと捉えています。今回のような機会を再度いただけるよう頑張っていきます。


この教室を立ち上げたきっかけの一つが、番組のテーマでもあったAIとの対局、AIの進化でした。2006~2008年に世界コンピュータ将棋選手権のエキシビジョンマッチで、時系列で順にBonanza、YSS、棚瀬将棋と対局し、AIの進化を肌で感じました。今振り返ると、かけがえのない経験をさせていただいたと思っています。その後、多くの指す将と同様に、人間を凌駕したAIを研究で活用してきました。

その経験から、AIは極めて優秀な存在であるのと同時に、万能な存在ではないと考えています。その話をするのにいくつかの切り口があると考えていますが、ここでは2点紹介します。

1つは「AIは結果を示すものの、その理由を明らかにしない」です。言い換えれば、”手”と”評価値”は示すものの、それに至る”読み筋”やそれぞれの変化の”形勢判断”は謎に包まれたままで、その理由はAIの開発者にもわかりません。ディープラーニング(AIの開発手法の1つ)や将棋のAIを創るための機械学習は、このブラックボックスを抱えてしまうのは避けられないと認識しています。

もう1つは「AIは人をモチベートすることが苦手」です。AIは目の前の局面の最善手を示す、その将棋に勝つ、という目的のために最適化された存在であって、個人個人にあった戦法や指し方の提案をしたり、個々の課題を提示してくれたりすることはありません。空気を読まず(笑)、最善手とその評価値を示すだけです。

ある一定のレベルに達して、手の意味づけやその手の背景にある考え方を読み取れたり、自身の将棋をどのような方向性に持っていくべきか把握できたりする人にとっては、極めて学習効果の高いツールですが、そのレベルに達する前の人には、それらを伝える人的なサポートが必要なのではないか、これが、教室を始める前の私の仮説の1つでした。(3年携わって、この仮説は大筋で間違っていなかったと思っています。)

“AIが人の仕事を奪う”はAIで必ず議論になる話です。将棋を教える仕事、もう少しかみ砕くと、いい手、悪い手だけでなくその理由を示したり、個々の課題と解決策を示してやってみようという気分にさせる仕事は、人間にしか出来ない。そう考えています。

技術は日々進化するので、この先どうなるかは正直わかりませんが、人を介して教えることに意味がある、という信念を大切にこれからも頑張っていきます。