ソフト指しについて思うこと

「”かむがふ”は、ソフト指しについてこども達に教育されていらっしゃるんですか?」
「こどもに、将棋ウォーズの棋神は良くて、ソフト指しはダメだということが、わかるのでしょうか?」

※ソフト指し=AIの力を借りて対局すること

最近、会話やメールでやり取りする中で、立て続けにこのような質問を受け、回答に困ってしまいました。恥ずかしながら、ソフト指しはモラルの問題で、守って当然のこととして捉えて、これまで言及してきませんでした。

そこで、前回のブログの「誠実さを最優先に行動してほしい」という話に絡めて、ソフト指しについての私の考えを書きたいと思います。


人間では測定できないほど強いAI

まず初めに、この話をする前提として、今のAIの強さは人間では測定不可能なレベルに達しているという認識をお持ちいただきたいです。

当時の最強AI”Ponanza”が佐藤天彦名人に勝利したのが2017年5月。この時でさえ、将棋の内容はAIが人間を圧倒していました。

それから4年経ちましたが、その間もAIの大会毎に前回の優勝AIに7~9割程度勝つAIが出現し、進化はとどまるところを知りません。さらに、最近ではディープラーニング系のAIが出現し、進化のスピードが加速しているという感覚さえ抱きます。

つまり、人間とAIの距離が遠くなりすぎて、AIが強くなっても人間には測定、理解できません。そして、人間とは比較できないほど質の高い手や評価値を提示できるようになっています。(人間が、どのくらい質が高いのか説明できないほどに…)


ソフト指しはルール違反

そのような環境なので、

将棋は生身の人間同士が対局するゲームで、AIの力を借りたソフト指しはルール違反

を理解してほしいと思っています。人間を遥かに凌駕したAIの力を借りると公平な勝負が出来なくなります。そんな対局は誠実ではないですし、面白くないですよね。

一部は人力で、勝敗に直結する局面だけAIを活用する通称「部分指し」でもルール違反です。もちろん、対面(リアル)だけでなくオンラインでも同じです。この教室がクラス分けの基準にしている将棋倶楽部24では、以下の通り、明確にソフト指しを禁止しています。
[利用規約]24ソフト指し取締委員会

「じゃあ、なぜ将棋ウォーズでは棋神を使ってもいいの?」

と感じる子は多いはずです。

将棋ウォーズは将棋を使ったソーシャルゲームという側面があり、棋神や棋神解析などのサービスで商売をしています。そこで稼いだお金があるから、将棋ウォーズのサービスを継続できています。将棋ウォーズは、このサービスに損害を与えるソフト指しを禁止しています。
ソフト指しに対する対応について

(ただし、このロジックは大人の事情でこどもには難しく、保護者の皆さまがお子様に丁寧に説明していただく必要があると思っています。)


中毒性のあるAI活用

対局中にソフト指しをするのはルール違反ですが、対局後にAIを活用して振り返ったり、課題局面でAIに候補手を聞く、という使い方は許されています。「生身の人間同士が対局する」というルールから逸脱していないからです。

ただし、一度AIを使ってしまうと、対局中のソフト指しはルール違反だと知っていたとしても、対局中もAIを使いたいたい衝動にかられる危険性があることをご認識いただきたいです。

例えば、陸上に例えると…

100mを小学生がどれだけ早く走っても12秒前後、世の中で最も早い人間が走ったとしても10秒を切る程度ですが、機械の力を借りると、人間よりも遥かに速い3秒や5秒でしかも簡単に走れてしまいます。

将棋の対局中は、どれだけ知識や読みの力があったとしても先の見えない息苦しい局面の連続なので、一度、AIの力を借りてこの感覚を味わってしまうと、対局中に自身が考えているよりも遥かに最善手に近い手を見たくなったり、自分の頭だけでは味わえない強さを感じたくなってしまう可能性があります。

なので、ご自宅のPCにAIを入れている場合、ルール違反が起こらない仕組み作りとその徹底は必須だと考えています。


ソフト指しはわかる

ソフト指しは必ず明らかになります。

AIによる一致率の解析でもちろん証明できますが、テクノロジーの力を使わなくても、見る人が見ればソフト指しか否かすぐにわかります。

事実、残念ながら…このコロナ禍でソフト指しと断定できる対局や棋譜を何回も目にしたことがあります。

ソフト指しをしても何も得することはないので、絶対に止めましょう。


【追記】それでもソフト指しをしてしまったら…

これまで書いた内容を頭では理解していてたとしても… どれだけソフト指し防止の環境を整えていたとしても…

オンライン対局のレーティングがなかなか上がらなかったり、対局中どれだけ考えてもいい手が見つからなかったりするなどの苦しさや、もっといい手を知りたいという将棋への興味から、魔が差して対局中にAIを使ってしまう可能性は捨てきれないと思います。

ですが、私はこどものソフト指しを重い罪だとは思っていません。
勉強のカンニングは、学力向上の苦しさから生じる学校や受験のあるあるですが、同様にソフト指しも、棋力向上の苦しさから生じる指す将のあるあるだという認識です。

私のような将棋の先生や、YouTuberなど、人力のみが前提で何らかのサービスを提供しお金をいただいている人がソフト指しをするのは一発レッドカードですが、ほぼ誰にも利害のないこどものソフト指しは大きな問題ではないと思っています。

もしソフト指しをしてしまっても、深刻に捉えず親子で事実を認めて、二度目が起こらないように反省し、オンライン対局の運営者に詫びて、前を向いて次に進めばよい。それが出来れば、ソフト指しをする前と同じように誠実に真摯に将棋と向き合えるはずです。


次回はこの話に関連して、AI活用で棋力の向上を出来るのか?をテーマに私の考えを書きたいと思います。