本との差分を取る

最近、ある有段者の受講生の保護者から、

「序盤を上手くなるために、どうやって勉強したらいいですか?」

という質問を受けました。棋力を問わず、誰でも抱える課題だと思うので、自分の考えを書きたいと思います。


最初に、級位者について。得意戦法を1つ決めてその全体像をつかめる本を何度も読んでほしいと思っています。角道を止める四間飛車であれば「四間飛車を指しこなす本1~3」、ゴキゲン中飛車であれば「攻めて強くなる戸辺流中飛車」などのその戦法の指し方が一通り紹介されており、かつ、一問一答形式の本であれば、理解しやすいでしょう。一問一答形式を見た瞬間に答えがわかるくらいにやり込み、実戦でその通りに使えれるようになれば、将棋会館道場で初段になるための序盤の力は身に付いたと言えると思っています。

【ご参考】
本は10回読む

次に、有段者について。初段から高段者を目指したり、低学年から高学年に求められる将棋にシフトするためには、単なる丸暗記では限界があると思っています。と言うのも、このレベルになると、覚えるべき定跡の量が格段に多くなり、さらに相手は定跡から外れた手でいくらでも変化してくるため、定跡を手と合わせて意味で理解して、たくさんの定跡を覚えやすくしたり、定跡外の手にも対応できるようにしたりする必要があると思っています。

【ご参考】
定跡の捉え方

また、このレベルになると本を読んでから実戦を指すという順番ではなく、実戦を指した後に本で復習するという逆の順の学習法が有効だと考えています。つまり、自分の対局の手順や考えたことと本に書いてある定跡手順や考え方を比較して、差分を抽出します。具体例を紹介すると、

これは、四間飛車対居飛車穴熊の戦いです。実戦はここで72飛と寄りました。これは、55歩 同歩 同銀に75歩の反撃を用意した一手ですが、55歩 同歩 45歩と居飛車穴熊が未完成のうちに仕掛けられて形勢を損ねました。

この局面は定跡書にそのまま載っており、72飛では22銀と穴熊を完成させて、55歩 同歩 同銀であれば86歩 同歩 75歩で居飛車も戦えるという結論になっています。また、本譜のように55歩 同歩 45歩と仕掛ければ、その瞬間に24角と反撃して居飛車が上手くいっています。この変化では、22銀が77角の利きを遮断しており大きな一手になっています。

このケースは、実戦と定跡がほぼ同じなので、本のどこに何が書いてあるか覚えていれば、対局後に復習できるはずです。

次にご紹介するのは、先日のオンライン対局で指したゴキゲン中飛車に対して、角交換をして居飛車が持久戦に構えた将棋です。ここで55歩と位を取った手が、争点(駒がぶつかる地点)を自ら消してしまう一手でした。

しかし、この将棋のように角交換後に居飛車が持久戦に構える将棋は居飛車、振り飛車共に手が広く(自由度が高く)、本にはそのまま載っていません。この場合は、どの定跡にこの将棋が分類されるか、自分の頭を整理出来ていないとたどり着けません。

この将棋は、ゴキゲン中飛車/角交換/居飛車持久戦/居飛車の5筋の歩が57歩、かつ、振り飛車の5筋の歩が54歩、という軸で、丸山ワクチンの類似形(=同じ性質を持つ形)に分類されます。そうすると、55歩とは突かず、後に55銀とぶつける争点を残しておくのがポイントであることがわかります。以下の図は、「攻めて強くなる戸辺流中飛車」に載っている局面とほぼ同じです。

どの定跡に分類されるのか、自分の頭で整理できるようになると、研修会で言えばB~Cクラス、奨励会入会レベルに近いと言っていいと思います。


このような形で序盤を学習できると、棋力向上にもつながりますし、定跡の精巧さを感じられたり、定跡が出来上がった歴史にも触れることができたり、とても楽しいと思います。ぜひ参考にしてみてください!