戦法分類法4

戦法分類法シリーズの第4弾。
今回は「戦法の難易度を決める要素」について書きたいと思います。


初めに、戦法の難易度を把握する重要性をご説明します。

上達のためには、勝因や敗因、上手くいった箇所や改善すべき箇所を自分の頭で整理する、 仮説検証のサイクルを回して、次の対局に活かす必要があります。そのためには、難しすぎず自分の頭で理解できる戦法や指し方を選択するのがポイントです。しかし、今たまに見かけるのが、こどもが現代のプロが使っているような難しい戦法を真似している光景です。そのような高度な指し方はカッコよく一見強そうに見えますが、自身で因果関係を整理できず改善して上達につなげるのは難しいと考えています。

戦法の難易度を決める要素を3つご紹介します。

①数の攻め(攻め駒の利きの集中)
将棋の戦いの基本は、数の理論です。攻める側は、攻める地点を決めて、相手が守っている枚数よりも1枚多い枚数で攻める。守る側は、攻められる地点(受ける地点)で、相手が攻める枚数と同じ枚数で受ける、これが数の理論=「数の攻め」「数の受け」です。これは数を数えることができれば理解できるのでわかりやすく、まずは数の理論で成り立っている戦法、例えば棒銀や右四間飛車、を学んでほしいと思っています。図を見ると、攻め駒が同じ方向を向いて攻め駒の利きが集中していることがわかります。

 

一方で、攻め駒の利きを集中させずに、攻め駒を連携させることで相手陣を崩すことも出来ます。これを「技の攻め」(私の造語)と言い、攻める地点が流動的で、攻め駒の利きが集中せず定量化できないため、数の攻めと比べて難易度が高いです。技の攻めの代表的な戦法は、角換わり腰掛銀です。図を見ると、盤上の飛、銀、桂、香の攻め駒が同じ方向を向いておらず、狙う場所が、1、2筋(飛と香)、4筋(銀と桂)、7筋(弱点の桂頭)と様々あり、持ち駒の角と合わせて攻め駒を連携させる高度な攻めが要求されます。

 

②覚えるべき変化の広さ、深さ、明快さ
あらゆる戦法に定跡が存在しますが、戦法毎に覚えるべき
・手の広さ/狭さ
・手の深さ/浅さ
が異なります。
たくさんのこどもを見てきて、手の深さ、つまり終盤の寄せ合いのような詰みに近い局面までの定跡を覚えるのはそれほど難しくありませんが、手の広さ、つまり一つの局面で有力な手がいくつもありどれもいい勝負のような定跡を覚えるのはとても難しいと感じています。もう1点は手の明快さで、ある程度選択肢が限られていて、狙いがハッキリしている手が多く、勝ち/負け、優勢/劣勢が明快な定跡が覚えやすいとも感じています。例えば、横歩取りの定跡を考えると、「4五角戦法」や「相横歩取り」は、数の理論で構成されていませんが、選択肢が比較的狭く、両取りなど狙いがハッキリしており、結論も明快なので、最終盤まで深く定跡化されていても、こどもにとって理解しやすく人気があります。

一方で、横歩取り「3三角戦法」は、手が広く何をやってもいい勝負のため、理解するのがとても難しいです。

③攻めと守りの駒の役割の明確化
初心者の時、必ず覚えるのが「攻めは飛角銀桂、守りは金銀3枚」という格言だと思います。この格言が意味するのは、攻め駒、守り駒の枚数だけではありません。どの駒を攻め駒にして、どの駒を守り駒にするのか、つまり駒の役割の明確化と玉を囲う位置の固定化です。この格言に最も当てはまるのは角道を止める四間飛車やゴキゲン中飛車などの振り飛車で、こどもにとって理解しやすく人気があります。

しかし、現代のプロの将棋は全く異なる考え方で指されています。同じ駒でもある時は攻めに使い、ある時は守りの役割を担わせる、つまり攻守兼用で変化により役割が攻めにも受けにもなります。またこの話に連動して玉の囲う位置も状況により変化します。これには、頭の中でそれぞれの駒の役割を定義し、その時々で攻めと受けのバランスを取りながら指す極めて高い技術が求められます。角換わり腰掛銀の新旧対抗形を例にすると、先手が昔の考え方で「攻めは飛角銀桂、守りは金銀三枚」と役割がハッキリしていますが、後手の駒の役割は状況により変化します。


これは、上の図から▲2五歩△6五歩と戦いが起こった時の代表的な変化です。この変化では、後手の飛側の金銀桂は攻め駒、3筋の金銀は受け駒になっており、後手玉は3一から2二と安全地帯に逃げ込みます。

これは、先手が▲4五歩と位を取り持久戦になった変化です。この変化では、後手の飛車側の金銀桂は受け駒、3三の銀は攻め駒になっており、玉は右玉に変化しています。全く性質の異なる将棋になっていることがわかります。


このように、戦法には難易度があり、取り組むには順番があると考えています。棋力に合わせて戦法を少しずつ高度にしていけると、学習が効率化できると思っています。プロがやっているような高度な指し方を指すのを全否定しているわけではなく、理解しやすく基本が身に付きやすい戦法から始めて、高段者を目指すような棋力になってから難しい戦法にチャレンジしてほしいですね。