勝ちと負けを同等に扱う

前回は振り返りの目的と具体例についてご紹介しました。今回はその補足で、振り返る対象について考えてみたいと思います。


仕事柄、受講生の棋譜を拝見する機会がたくさんありますが、負けた棋譜を受け取ることが多い、という傾向があります。

この背景には、負けた棋譜の中に上達するヒントがある、という考え方があると思い、決して間違ってはいませんが、その考え方は、少し浅く、十分ではないとも感じています。

学校のテストであれば、人間は自分1人しかおらず、間違えた問題=理解できていなかった事象と捉えて、間違えた問題を中心に対策を立てて取り組めばよいと思います。(もちろん、より高度なレベルを目指すのであれば、合っている問題をより速く、正確に解けるようにするという考え方で取り組むのもあります。)

しかし、人間が複数人いる将棋では勝敗が決まる構造が異なり、捉え方を変える必要があります。

相手がいる勝負事では、勝敗は自身の理解度や技術の高さではなく、自分と相手とのパフォーマンスの差で決まります。

つまり、
・勝つのは、自分のパフォーマンスの方が相手のパフォーマンスに比べてよかった時
・負けるのは、相手のパフォーマンスの方が自分のパフォーマンスに比べてよかった時
です。

次に考えるのは、自分と相手の対局毎のパフォーマンスの高さがどうなっているかです。

ごく稀に大好手や大悪手を指す=出来不出来が激しい時がありますが、ほとんどの対局では、好手、悪手は自身の棋力に基づき一定の割合に収まっていると考えるのが自然です。

と言うことは、100点満点で改善点のない対局はありえず…(それは藤井聡太さんでも同じです!) 勝ちと負けを同等に扱い、勝敗に関わらず、自身の棋譜の中に上達するヒントがある、がより確からしい考え方です。

負けた棋譜の中に改善点があるのはもちろんですが、勝った棋譜の中にも改善点がありますし、場合によっては勝った棋譜の中に上達につながるより重要な課題があることさえあります。

なので、勝敗に関係なく、一生懸命指した対局の棋譜を出来る限り多く残してほしいと考えています。研修会員であれば、例会での対局(1日4~5局)の棋譜を全て残すことがスタートラインです。


勝ちと負けを同等に扱う、という考え方には、違和感がある方が多いかもしれません。

教室を運営してきて断言できるのは、棋譜の中から上達につながる重要な課題を抽出し、確からしい取り組み方さえすれば、棋力が向上する可能性が極めて高く、勝ちは自然に集まる、ということです。

どんな結果であっても、一局を大切に扱い、上達していきましょう!


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