読みの蓄積

最近、オンライン勉強会の受講生の研修会への入会が密かな(?)ブームになっています。その向上心の高さをとても頼もしく思っています。そこで今回は、研修会の対局で特に気を付けてほしい”読みの蓄積”について書きます。(研修会員でなくても、研修会C2~D1以上のレベルに達したら同様に意識してほしいことです。)

研修会と小中学生の大会で大きく異なるのは持時間の長さです。持時間30分で使い切ったら一手60秒は子供の大会の持時間と比べてかなり長いです。なぜ、そのような長い時間設定になっているのでしょうか?

その答えの一つが、”読みの蓄積”だと考えています。

“読みの蓄積”とは、持時間を有効に使ってトコトン読んで、自分の体の中に読みを貯めていくことです。しかし、ただ漠然と読んだり、ただ読みの量が多ければ良いという話ではありません。論理的に読みを積み重ねて、この変化は優勢、この変化は互角、この変化は劣勢、と自分の頭を整理して、そのストックをどんどん貯めていくことです。何となく勝った負けた、何となくいい手だった悪い手だったではなく、徹底的に原因と結果の関係を突き詰め、自分の頭を整理していくんですね。

これは、最近、子供同士の対局で見た局面です。
今、55歩と後手が歩を取った所で、先手は①同角と②同飛の2つの有力手があります。

①同角 同角 同飛 33角
ここで振飛車が不利と即断してしまう子が多い気がしますが、それではもったいないです。せっかくなのでもう少し読んでみましょう。

33角以下、59飛 99角成 77桂
ここまで進むと、馬取りと66角の両狙いで切り返す事が出来ています。さらに読み進めてみると、

77桂以下、98馬 66角 33桂 84角 45桂 66角 33銀 46歩
ここまでくると、駒の損得、駒の働きともに振飛車が勝り、振飛車がハッキリ優勢だとわかります。

では、居飛車はどう改善すればよいでしょうか?
一案は、33角 59飛の局面で58歩とたたく手です。同飛であれば、99角成で77桂が先手になりません。

58歩以下、同金 99角成 77桂 98馬 66角 33桂 84角 45桂 66角 33銀 46歩 57歩
この変化は、居飛車の58歩が生きた変化で、振飛車は、これでも戦えるかどうか確認する必要があります。48金、または、45歩 58歩成 同飛で振飛車優勢が私の感覚です。


この変化が振飛車優勢だと仮定すると、33角が悪手になり、代わりに33銀として次の69角を狙う手が考えられます。以下、59飛と69角を消して、、、キリがないので(笑) 各自研究してみてください。

②同飛 同角 同角 33桂 66角打 74飛 75歩 84飛 54歩
この変化は、次の34銀が受けにくく、振飛車がハッキリ優勢です。

居飛車の代案を考えると、33桂で33銀と上がる手が思い浮かびます。
同飛 同角 同角 33銀 66角打 74飛 75歩 84飛 54歩 42金上
これは、振飛車の角2枚と銀が使いにくく、居飛車が少し優勢だと思います。

ここまで読んで(ただし、上記も変化の一例にすぎません)、①同角と②同飛を比較すると、①が最有力であることがわかります。
このような感じで、変化とそれぞれの形勢、改善策を整理しながら読みを貯めていくのが、”読みの蓄積”です。

このように読むためには、読みの力を向上させる詰将棋の練習、得意戦法の定跡や手筋、実戦例の理解、対戦相手の特徴の研究、対局後の棋譜取りや振り返りなど、基本の積み重ねが欠かせません。

最初は読みがまとまらなかったり、勝手読み(相手の好手を読まず、自分都合の読み)で無駄な変化ばかり読むことも多々あると思います。その場合は、対局後に、どうすれば読みがまとまるのか、何が無駄な読みで、何が意味のある読みだったのか、を検証する作業が重要です。(自身の思考プロセスの検証は、自分の頭でしか出来ず、AIには出来ません。)

そうして対局を重ねていき、読みのストックが一定量たまると、ある時、より早く読みや判断ができるようになったり、今までよりもより高度な視点で局面を見れるようになります。

同じ一局を指すにしても、持時間をいかに使うかで今後の成長度合いが大きく変わる。研修会での経験が棋力の向上につながるのを願っています。