AI活用は2,900点から

前回は、ソフト指しについてブログにまとめました。

今回は、その内容に関連して、現代の指す将のホットトピックであるAIを活用した将棋の学習について、私の考えを書きたいと思います。


はじめに結論から書くと、AIは上手く活用すれば優秀な学習ツールになりうると思いますが、こどもの段階でAIを使うのは時期尚早と考えています。

その理由は…


ブラックボックス

ディープラーニングであれ、機械学習であれ、今のAIはブラックボックス、つまり、結論は示すけれど、その背景にある理由は示さない、という特徴があります。理由は、そのAIの開発者にもわかりません。

将棋においては、手とその局面における評価値(結論)は提示してくれますが、その手の読み筋やその局面の評価基準(背景にある理由)は提示してもらえません。

人間が物事を学習する上では、結論と理由をセットで理解しないと汎用性が高まらず、結論だけ覚えるだけでは活用用途が限られる、極論を言うとその局面でしか使えません。

なので、AIが示した手と評価値の背景にある読み筋と局面の判断基準を自分自身で読み解く必要がありますが、こどもの段階でそのための知識を持ち、実際に読み解くのはほぼ不可能ではないかと考えています。

AIが提示する手と評価値を棋力向上に役立てるのはとても難しいです。


評価値の真の意味


AIを使ったことがある人だったらわかりますが、AIは手と同時に+300など具体的な数値でその局面の優劣を示してくれます。これを評価値と言います。

この値には、
「そのAIが指し継ぐのであればその評価値」
という前提があります。

つまり、その局面やその後の手順の難易度が考慮されておらず、攻め、受け、流れの速い展開、じっくりした展開…あらゆる指し方に対応できる完璧に近いAIが指し続けた時の点数です。

しかし、ほぼ100%のこどもは、攻めた時に強みが出る子、玉を固めてじっくり戦いたい子、序盤にあまり興味がなく終盤が突出している子… 強みと弱みがハッキリしている不完全な将棋です。

なので、盤上の理論的に正しい手が、その子にとっていい手、勝ちやすい手ではないという事が頻繁に起こります。

例えば、攻めに強みが出る子に、受けに回り続ける手を指せば+300、攻める手を指せば-300という結論をAIが提示したとすると、攻める-300を選択した方がその後にいい手をたくさん指せてその子にとって勝つ可能性が高まる、逆に、受け続ける+300を選択しても、強みが出る展開ではないため+300を維持できず、攻める-300より負ける可能性が高まる、という事象が起こります。

不完全なこどもの将棋は、盤上の理論上の最善手よりも、多少劣っていても持ち味の出せる手を指した方が、満足感を得られ、かつ、勝ちやすい、そう思っています。


成立する広大な手

AIが提示する最善手を見ると、この手を指さなきゃダメ!という錯覚に陥ってしまいがちですが、実は将棋(特に人間同士の将棋)は、1つの局面で成立しうる手がたくさんあり、さらに様々な作戦(戦型)も成立しうる広大なゲームです。

AIを誤って活用すると、将棋の可能性を見落とし、自身の将棋が狭くなってしまう危険性があります。


長々とたくさん書きましたが、対局後や研究でAIを使う時間があるのであれば、自分の頭で徹底的に考え、試行錯誤した方が、こどものうちは上達につながりやすい、が私の考えです。

– 自分の好み、強みを活かす戦い方を自分なりに考える。
– 目の前に強い相手が現れて、これまでの戦い方では勝てず、これまで使ったことのない指し方も考えてみる。
– より上を目指すために、あえて今まで捨ててきた手を読んで指してみる。

そんな風に自分の頭で徹底的に考えているうちに、強みが強化されると共に、弱みが解消され、不完全な将棋が少しずつ完成形に近づいていくと思っています。そこに、AIが入る余地はありません。

AIを使うのは、自分の頭で考えに考え、考え尽くした後でも遅くありません。そのタイミングは目指すレベルにもよりますが、とことん上を目指すのであれば、将棋倶楽部24のレーティングが2,900以上になった後でもよいと思っています。AIを早く使いすぎると、指す将にとって最も重要な自分の頭で考える力が育まれないリスクがあります。


…と、ここまでロジックで書いてきましたが、最後に感情的に思う事です。

– こどものうちからAIと睨めっこして勉強して、本当に楽しいですか?
– こどものうちからAIと睨めっこしないと勝てない世界が健全で魅力的だと言えますか?

この2点の私の答えは、両方ともNoです。

自分の考えを盤上に自由に表現出来たり、自分の考えた手で勝つことが楽しくて将棋を始めたはずです。そして、こどもの将棋はその延長線で、棋力をいくらでも向上できるし、結果を残すことは可能と信じています。

時代遅れの考えという意見が聞こえてきそうですね(笑)
私のこの考えが成立することを、この教室を通じて証明していこうと思います。