1度きりの勝負

今週末は倉敷王将戦、中学選抜選手権の千葉県大会です。昨年の同大会が昨日のように思い出され、1年は本当にあっという間ですね。

教室を運営していて感じるのは、小中学生の大会、その中でも特に低学年の部と高学年の部で分かれている倉敷王将戦は、その1回限りの勝負をしているということ。高校野球などの学生スポーツと同じで、次の年は無いという気持ちで取り組んでいる親子を何組も見てきました。

そこで今回は、私の将棋人生で、次はない負けられない勝負をした思い出を書きたいと思います。

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2002年の学生王座戦の出来事です。学生王座戦は大学将棋部No.1を決める7人制の団体戦で、各地域の予選を勝ち抜いた全10校が3日間かけて総当たりのリーグ戦全9回戦で争います。

その年、大学3年生だった私は立命館大学将棋研究会の主将を務め、大学日本一になるために全てを賭けていました。

そして迎えた大会は2日目まで終わり、優勝争いは6戦全勝の立命館大学、東京大学、明治大学の3校に絞られました。

大会中の夜は、次の日に備えてミーティングを行います。ビジネスホテルの3人部屋にチームメンバー約30人が集まって、他校のオーダー(並び順)や得意戦法、相手選手との相性や双方の調子などを分析し、次の日のオーダーや作戦を立てます。

分析の結果、母校の優勝には、7回戦の東京大学戦と9回戦の明治大学戦での勝利が必須で、ポイントは7回戦の東京大学戦の副将戦であることがわかりました。

そこで、1回生ながらチームのポイントゲッターである禰保拓也くん(2018年支部名人)にこう告げました。
「東大の副将戦で、禰保くんが山内一馬くん(当時の東京大学のエース)を取らなければ、チームが勝つ保証はない。」

しかし、彼は力のない声で、、、
「正直、勝てる気がしない。。。練習将棋を含めて一度も勝ったことがない。。。」

長い沈黙の後、チームメンバー全員で彼を鼓舞するも、返事は全く変わりませんでした。再度、オーダー表を確認するも、東京大学に勝つには、この並び順しかなく、副将戦を理屈抜きで取らなくてはいけません。夜9時から始まったミーティングは気づけば日が変わり、大きな不安を残したまま終わりました。

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翌朝、東京大学戦の前に再度チームメンバーで集まり、前日の不安を抱えたまま、昨晩決定したオーダーを再度確認しました。そしてミーティングが終了しようとした時、

「ちょっといいですか、、、昨日は、ひよった事を言って大変申し訳ありませんでした。今日は、盤の前に座った相手を全員投了させます!!!」

禰保くんは、宣言通り最終日全勝。

チームは、

7回戦 東京大学 5-2
9回戦 明治大学 6-1

の望外の大勝で、母校は2年ぶり2度目の大学日本一に輝きました。

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この経験から、何が何でも勝たなければいけない勝負への気持ちの高め方、肝を据える大切さやそのパワーの大きさなどたくさんのことを学びました。この学びが、翌年の学生三冠(学生名人、学生王将、オール学生)や、その後のアマ竜王、朝日アマ名人などのアマタイトル獲得につながったと思っています。

重要な大会は、自身を飛躍させてくれる貴重な機会です。今週末、皆さんが力を出し切り望む結果を得られるよう、たくさんの学びを得られるよう願っています。

学生王座戦のミーティングの様子