“考える”とは何か? ①比較する

この教室の名前は「かむがふ」で、将棋を通して普遍的な考え方を身に付けることをこの教室の提供価値にしたいという思いから、”考える”の語源を採用しています。

しかし、”考える”と一言で言っても、その営みは広く深く、つかみどころがないと感じられる方も多いはず。そこで、教室設立から5年経ったこのタイミングで、”考える”とは何か?を私なりに考察したいと思います。


初回は、比較する、です。

まず初めに、考えるためには、頭の中に考えるための元になる材料が必要です。世の中の新たなアイディアは、ゼロから生み出されたものはほとんどなく、既にあるアイディアの組み合わせや、そのちょっとした変化によって生まれています。将棋で言えば、定跡や手筋などの手や、格言のような理論が材料に当たります。

自身の得意戦法に関連する材料(定跡、手筋、格言など)を覚えてその通り出来るようになる、が第1ステップ(それが出来れば初段にたどり着きます)で、その後に、どのように考えてその材料を活用するか、が問われます。

そして、手持ちの材料を活用する一つの手法として、自身が知っている材料と目の前にある盤面を比較して、その違いを抽出するという考え方があります。以下、その例を示します。

四間飛車対右四間飛車の定跡形。ここから
▲2五桂 △2四角 ▲4五歩
と進めて
(1)△同歩 であれば ▲1一角成(次の▲2一馬の駒得の狙い)
(2)△同銀 であれば ▲同銀 △同歩 ▲3三銀
と攻めるのが習いのある攻め方です。

では、振り飛車の△5二金左型が△3二金型に変わった定跡とは異なる局面が目の前に現れた時に、どのように指せばよいでしょうか?

まずは、定跡通りに
▲2五桂 △2四角 ▲4五歩
と進めると、
△同歩 ▲1一角成 △3一金
と進んで、相手の桂香が取れず、次の△4六歩や△4六角以上に得になる手が存在しないため失敗です。

そこで、定跡の△5二金左型と目の前の△3二金型を比較して、それらの違いについて考えてみます。

そうすると、
△5二金左型:中央の守りが固い、(右四間飛車から見て)右辺の守りが薄い
△3二金型 :中央の守りが薄い、(右四間飛車から見て)右辺の守りが固い
に気付きます。(これは、この連載の第2回に予定している”解釈する”が含まれます。)

よって、△3二金型に先ほどのように右辺を攻めるのは失敗で、中央を狙った方が効果的な攻めになる可能性が高いことが分かります。

中央を狙うという条件を満たす手は、
(1)▲5五銀
(2)▲4五桂 △同歩 ▲同桂
が挙げられます。


この”比較する”プロセスを振り返ると、既存の定跡を活用して、自身の思考を経て新たな変化を生み出しています。”考えて”将棋を指していると胸を張って言え、ますます将棋を指すのが面白くなるはずです!

“考える”とは何か?シリーズ。次回は、②解釈する、の予定です。