先日行われた第14回朝日杯将棋オープン戦の準決勝、決勝は、劇的な終盤戦でした。ご覧になった方も多かったと思います。渡辺三冠-藤井二冠戦、藤井二冠-三浦九段戦ともに、AIの数値(評価値)は藤井二冠の敗勢を示していましたが、優勝したのは、やはりと言うべきか、藤井聡太二冠でした。
(AIの数値から見て)なぜこのような大逆転が起こったのか? それは、人間の将棋には数値化できない力が勝敗決定要素として働くからです。
渡辺明三冠が自身のブログでこのように綴っています。
その前を思えば、あの時点では難解な1通りしか勝ちがないくらいに追い詰められていました。二枚の角をXのように大きく使って粘られて、勝っているはずのこちらが余裕がなくなっていった、という終盤戦でした。
また、三浦弘行九段は局後にこのようなコメントを残しています。
終盤は。最後の方は、うーん、なにかあったような気もするんですけど、ただ、読んでいない手を指されて (中略) 先ほど検討した感じでは、指しづらい手を指さなければいけなかったみたいで、そこは(藤井二冠は)さすがの勝負術だな、と思いました。
つまり、数ある選択肢の中で1つしか勝ちが無かったり、人間には読みにくい手を指したり、人間には指しにくい手が最善手の局面に誘導したり、という勝負術が存在します。そのような勝負術で、AIの数値上では敗勢だけれど、人間的には勝ち方が難しい局面になるんですね。
これは限りなく高度な技術なので、なかなか真似は出来ませんが、こどもが意識して実践できる数値化できない力も存在します。
その一つが、”自玉の近くで戦わない、敵玉の近くで戦う”です。
将棋は、自玉を取られたら負け、敵玉を取られたら勝ちというゲームなので、自玉付近で戦うと一つのミスが負けに直結しやすい、しかし敵玉の近くで戦うと一つミスしてもすぐに負けにはならない、という特性があります。この特性を活用して実践できると、AIの評価値では互角、場合によってはやや不利だけれど、人間的には勝ちやすい局面を作り出すことが可能です。特に、こどもの将棋は、いかに敵玉の近くを荒らすか(いかに相手の守りを剥がすか)が勝敗に大きく関わるので、この戦い方は有効だと思っています。
有段者や研修会員で、AIを活用して勉強している子は多いと思います。熱心で素晴らしいと思いますが、数値化できない力があり、それが勝敗に大きく関わることを認識していただきたいですね。それは、研究中や局後に電子機器の画面とにらめっこするのではなく、対局中、対局後に自身で徹底的に考えなければ身に付かない力です。