有段者から高段者を目指したり、低学年から高学年の将棋にシフトする時に、たくさんの課題が現れますが、その一つが、
「定跡をどこまで細かく理解(覚える)すればいいか?」
だと思います。この教室を始めて3年近く経ち、ちょうどその時期に差し掛かっている子が何人かいるので、今回はその問いに対する自分の考えを書きたいと思います。
まずは、一局の将棋全体から見た序盤の位置付けからです。これまで幾度と書いた通り、将棋には、ゲームが進めば進むほど一手の価値が高まる(勝敗決定度合いが大きくなる)という性質があります。よって、ゲームの進行とは逆に、終盤、中盤、序盤の順で重要です。
その中で、序盤に求められるのは、互角で乗り切れる(場合によっては、中終盤で勝負できる少しくらいの劣勢でも構わない)だけの定跡の知識です。
定跡を学ぶのに、本から入るのが王道です。特定の戦型の更に特定の形の定跡書(例えば、横歩取りのXX流、中飛車のXX型など)が、頻繁に出版されるのが最近のトレンドですが、小中学生が中終盤で勝負できる形勢になる序盤の知識を得るのに、その本の全て、約200ページを覚える必要は全くありません。
本当に必要なのは、本全体のたったの10~20ページ分程度の量の知識です。これなら多くの子が自分でもできる!と思うはず。最初はそれがどこなのかを見極めるのが難しいですが、まずはそのような視点を持ってもらいたいと思っています。
もう一つ考えるべきことは、学ぼうとしている指し方が、自分の琴線に触れるか(指していて楽しいか、棋風に合っているか)です。以前にも書いた通り、人間はAIのように固定観念なく考えられる完璧に近い存在ではなく、棋風や思考にクセがある存在です。よって、自分のカラーを出すことが、その後の局面で良い手を指す、悪い手を指さない、つまり勝ちにつながります。いくら理論的(AIの評価値的)に優秀な指し方だったとしても、現時点の自分がしっくりこないと感じれば、それは悪い指し方になってしまいます。
(「現時点の」と書いたのは、年齢や経験を重ねれば、過去にしっくりこなかった指し方でも指してみたいと思うようになり、自身の将棋の成熟につながる、と考えているからです。)
そうして得た最も重要な10~20ページの知識量で、道場や大会、研修会などで実戦経験を積み、その定跡書を活用して実戦で現れた局面に関連する箇所を細部まで掘り下げて理解する。
これが序盤力が高まる勉強方法だと思います。
次回から、序盤のどこを押さえる必要があるのか特定の本を活用してご紹介したいと思います。