一局の重み(実践篇 対局後の振り返り)

一局をもっと大切に扱いましょう、という話の続きです。前回は、対局中に考えたことについて書きました。最終回の今回は、対局後の振り返りについて書きたいと思います。

はじめに、自身の対局を振り返るためには、棋譜を残すことが前提です。まずは、棋譜取りを習慣化してほしいと思います。大会や道場に行った日に、1局でいいので記録することから始めましょう。上手く指せた将棋、負けて悔しかった将棋、課題が残った将棋、何でも構わないです。

次に考えるべきは、振り返りをする目的です。もちろん、未来の対局に活かすために、ですね。そのために求められるのが、汎用性や再現性です。この手が悪手で、ここでこう指せば自分が勝っていた、と指し手だけ振り返りをする子がよくいますが、これでは、次の対局に活かすのが難しく効果が薄いと考えています。

では、どう振り返るのがいいのでしょうか?


前回書いた通り、対局中に葛藤のあった局面。ここで、不本意ながら61飛~52銀~53銀と金銀を終結させて固める手(昔からある発想)を選びましたが、この代案は現時点では見つかっていません。この局面は、後手が動けない上にプラスの手が少ないです。

もし、後手が変化するとすれば数手戻ったこの局面、このタイミングで、86歩 同歩 同飛 87歩 81飛と飛先の歩を交換するのが一案です。一歩を持てば、先手は77桂とはぶつけにくくなり、先手の攻め駒が限られます。しかし、自分が一方的に都合の良い手は存在しない、のが将棋です。後手が飛先の歩を交換に1手費やして、囲いの整備が遅れている隙を狙って先手は動いてきます。以下、46角 63金 24歩 同銀 55銀左 同銀 同角 54金 11角成 33桂 が変化の一例です。

欲張ろう(飛車先の一歩を持とうとする)とすると、相手もプラスを求めて積極的に動いてきて直線的で指し手の自由度が狭まり研究で勝敗が決まる可能性が高くなる。こういう将棋を指したいのか、指して面白さを感じるのか、と問われればあまり前向きではない。一方で、本譜のように少しスピードを緩めてゆっくりした展開にすると、指し手の自由度は高まり個性は出しやすいが作戦負けの可能性が高まる。ここに、日々洗練され続ける現代将棋の難しさがあります。この角換わり腰掛け銀に限らずどの戦型でも、トレードオフの関係である研究と指し手の自由度のバランスをいかに取るのが自分に合っているのか、心地よいと感じるのかは、日々探っていかなければいけない課題だと感じました。

中盤戦で、先手が端を攻めてきた局面。ここで、75歩 14歩 65桂と反撃しました。

「自玉の近くだけで戦いを起こさない、自玉の近くで戦いが起こったら、必ず敵玉の近くでも戦いを起こす」はとても大切な考え方で、教室でもよく伝えている話です。人間は、AIと違って感情がありミスをする生き物なので、相手に怖いと思わせる指し方=敵玉の近くで戦う、が勝率の高い指し方です。指し手の良し悪しだけでなく、勝ちやすさも考慮に入れて手を選択するのが重要なんですね。

その考え方に則り、自玉の近くを攻められた怖い局面で怯まずに反撃できたのは良かったです。

終盤戦で、一手違いの局面。ここで、28歩成 同飛 39銀と遠巻きに攻めました。以下、38飛であれば、48銀成 同飛 37角が攻防手になります。

この局面は、後手玉には詰めろがかからず(例えば、71飛 51桂 63桂は詰めろにならない)、2手すきで迫ることができれば後手が勝てます。本譜の指し方は、その速度計算だけでなく、盤を広く見れていたからこそ指せた手でした。

この日は、序盤から終盤まで、盤を遠くから見下ろして81マス全体を見れており、双方の玉の距離感を正確につかめていました。この感覚を継続できるように、心身の管理、棋譜並べや詰将棋などの練習に努めたいと思いました。


簡単に振り返りましたが、未来の対局に活かす、という目的を踏まえ、指し手だけではなく汎用性や再現性のある考え方まで落とし込むのがポイントです。

このような感じで振り返りができれば、必ず成長のスピードが加速します。最初は難しいと思いますが、練習して棋力向上につなげていただければ幸いです。(完)