第76期将棋名人戦七番勝負第3局 羽生-佐藤(天)戦

近年、将棋は劇的に変化し続けているが、それは序盤戦術に限った話ではない。
例えば、終盤では、

相手のパンチに対して受けるのではなくより強いパンチで返す。
たとえノーガードで殴り合ったとしても、意外に自玉は長持ちする。

という考え方がトレンドになっている。

昨日から二日間にかけて行われた第76期将棋名人戦七番勝負第3局、羽生善治竜王-佐藤天彦名人の終盤がまさにその考え方の象徴だった。

後手が△7六歩と先手玉にプレッシャーをかけた局面。
ここでは▲7四歩などで後手の攻めを緩和する指し方も有力だが、
羽生竜王は自玉の危険を顧みずに攻め合った。

▲3四桂 △7七銀 ▲6九玉 △8一飛
▲5四歩 △8五飛 ▲6四角 △4一玉

まさにノーガードの殴り合い。
先に、先手玉に詰めろがかかったが、ここで先手玉を長持ちさせる一手がある。

▲5九玉

後手玉は▲5三歩成~▲5二との2手すきになっているが、
この早逃げで、それを上回るスピードの攻めがない。
ここで、▲5八玉は△8七飛成が詰めろとなり速度が逆転する。

少し進んで△5一角と詰めろを受けた局面。

▲7七桂 △7三角 ▲8五桂 △5七銀成 ▲8一飛
まで先手勝ち

▲7七桂~▲8五桂の天使の跳躍が決め手。
このようなきれいな手はノーガードで相手の攻めをギリギリまで引き付けたからこそ生じた手で、△7四歩などとスピードを緩めると決して現れない手だ。

これで挑戦者の羽生竜王から見て2勝1敗。次局は佐藤名人の先手番という事もありますます名人戦から目が離せない。