「長い持時間(例えば、研修会=30分切れたら1手60秒)に慣れてしまい、大会での30秒の秒読みだと時間が短く感じていい手が指せないのですがどうしたらいいですか?」
研修会員の親子からよくこのような質問を受けます。今回はこの質問に対する私の考え方を書きます。
将棋を指すのが真に上手、とはどのような状態なのか? を思考時間の長さを軸にして書くと、
・ノータイム(盤面をパッと見て5~10秒)で局面の状況を把握して第一感でそれなりの手=最善手ではないかもしれないけれど局面の均衡を保つ手を指せる
・30秒(秒読み)あれば、読みと形勢判断で第一感の手の裏を取れる、第一感の手が悪手であることがわかれば代替手を示せる
・5~10分考えれば、読みを深めて形勢判断をし、指し手の精度を高められる
です。
一言で言うと「早見え遅指し」=手が早く見えるけれど時間が許す限り手を動かさず考える、です。
しかし、こんな理想の状態の子はほぼおらず、ほとんどの子は以下のどちらかに当てはまります。
早見え早指し
候補手が早く見えて、手を早く動かすタイプ。攻めが強い/敵玉を捕まえる力が強い元気な将棋を指す子に多いです。反面、じっと考えを練るのが苦手です。
このタイプの練習法は、一目では解けない詰将棋を5~10分考え続けること、目の前の局面で代替手を出し第一感の手と比較する習慣を持つこと、などです。
ここで注意が必要なのは、候補手が早く見えると言っても、瞬間的に局面で求められる一通りの要素を押さえて候補手を出している子は稀なことです。ほとんどの子は何かの要素に抜けがあり、その状態を続けていると遅かれ早かれ壁にぶつかります。(しかし、攻めが強い/敵玉を捕まえる力が強いのでそれなりに勝ててしまい必要に迫られず、この改善はそう簡単ではありません。)
お伝えしたいのは、巷では早見え早指しを才能と捉えがちですが、瞬間的に局面で求められる一通りの要素を押さえていい手を指せる真に才能のある子はほとんどおらず、早見え早指しは誉め言葉では全くないということです。
遅見え遅指し
手が見えるのは遅いけれど、じっと考えるのが得意なタイプ。受け将棋の子に多く、研修会のような長い時間設定で力を発揮することが多いです。
このタイプは、短時間でもそれなりの手を指せるようになることを目指してほしいです。
練習法は、次の一手問題を早く大量に解くこと、将棋倶楽部24などで秒読みの練習を積むこと、などです。ただし、次の一手を早く解くと言っても、仮に制限時間を30秒以内として、その時間内に局面で求められる一通りの要素を押さえて読みと形勢判断で次の一手を選択することが重要です。ただ単に勘で正解手にたどりついたとしても学習効果が高いとは言えません。
※局面で求められる一通りの要素とは何か?については、この教室でも推奨している羽生さんの名著「上達するヒント」を参考にしてください。
「早見え遅指し」これが真の誉め言葉です。
早く正確に考えられること、持時間が短くてもそれなりの手を指せること、持時間が長ければ手をすぐには動かさず考え続けて指し手の精度を高められること、この状態に少しでも近づくことを目指してほしいです。