なぜ駒落ちを学ぶ必要があるのか?

来週、森内俊之九段(十八世名人資格保持者、紫綬褒章受章者)をお迎えして、教室1周年記念イベント「印西こども竜王戦」を開催します。永世名人との対局を楽しみにしている子も多いでしょう。滅多にない貴重な機会なので、各自手合いを決めてしっかり準備して臨んで欲しいと思っています。そこで、今回は駒落ち(ハンデ有り)を学ぶ大切さについて書きます。

大会は全て平手(ハンデ無し)なのに、なぜ駒落ちを学ぶ必要があるのか?

そんな疑問を持つ方もいらっしゃると思います。道場では、棋力差を埋めるために駒落ちが活用されますが、本当の目的は別にあると考えています。それは、局面を簡略化して相手の弱点など局面のポイントをわかりやすくし、将棋の筋や考え方を身に付きやすくするため。平手は駒の数が多く局面が複雑なので、駒を少なくシンプルにして理解しやすい形にするんですね。

将棋の筋や考え方を身に付けるためのポイントは、駒落ちの定跡を学んだり駒落ちで対局する際、手と合わせてその手の意味や考え方を理解することです。“相手の弱点はここだからこの手でその弱点をこう突く”のように。例えば、二枚落ちの二歩突っ切り定跡であれば、下手の角筋の力で上手の左辺の金銀の働きを弱める=遊び駒にする、という考え方が前提になっており定跡はその考え方に則って構成されています。(手だけを暗記して、意味を理解しない、または、意味の理解が浅いと、上達する過程で必ずどこかで壁にぶつかります。)

「将棋はゴルフ以上にバンカーが多いゲーム」

これは、羽生善治さんの名著「上達するヒント」の一文です。1つの局面に約100通りの動かし方がある中で、その8割はバンカー、1割がラフ、1割がフェアウェイが私の肌感覚です。駒落ちで将棋の筋と考え方を身に付けることができれば、駒落ちだけでなく平手でもフェアウェイの手が指せる可能性が高くなると考えています。

また、毎週教室で駒落ちで対局して下手だけでなく上手も学べる事が多いと感じています。上手から見ると、駒を落とした分だけ下手との戦力差があるので、基本的に自分から動く手は戦力が足りず上手くいかない。戦力差を埋めるために、下手の駒を働かせないようにしたり、下手を急かして無理な動きをさせる必要があります。さらに、上手が形勢不利な局面をあえて持っていると捉えれば、逆転術の練習にもなります。道場で上手を持つ時には、そんな意識を持って指すと学びが多いでしょう。

来週のイベントは私もとても楽しみです。子供達の1年間の成長を見るだけでなく、永世名人の上手の指し回しを勉強して、来年以降の教室での対局に活かしたいですね。