しなやかさ

中学2年の夏に将棋を始めて5~6年ほど経ち、高校、大学、社会人の全国大会を何度か経験した頃、ふとある問いが頭に浮かびました。

「常に優勝する人と一度しか優勝できない人、長期的に勝ち続ける人と一定期間だけ勝つ人、その違いは何だろう?」

アマと言えども層は厚く全国大会に行けば実力の差は紙一重、プロはなおさらです。それなのに、アマもプロも特定の人にタイトルが集まるのが不思議でならなかったのです。

そこで、アマプロ問わず棋譜を片っ端から並べて、大会では敗退しても家に帰らず(これはかなり辛い 笑)人間観察に勤しむことにしました。その分析から様々な要因が浮かび上がり、その一つが”しなやかさ”という結論になりました。

“しなやかさ”とは、核になる強みを持ちつつ、状況の変化に柔軟に適応できる力だと考えています。

専門的な話になりますが、将棋の戦法や指し方のトレンドは、時の流れに従い少しずつ変化しています。ここ数年はAIの影響で角換わりや相掛かりにスポットライトが当たっていたり、曲線的な指し方より直線的な指し方が好まれる傾向にあります。また、江戸時代から現代まで約400年の流れを大まかに見ると、攻めのスピードが少しずつ早くなっている(より短い手数、より少ない駒で攻めの形を作れるようになってきた)という傾向があります。

そのような常に変化する環境には安住の地がなく、勝ち続けるためには合わせて自身も少しずつ変化していく必要があると考えています。言い換えれば、”完全”という状態は存在せず、常に”未完全”が当たり前という意識を持ってより良い状態を目指し続ける姿勢が求められます。

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新型コロナウイルスの影響で、現在進行形で社会が劇的に変化しています。今の”ウィズ・コロナ”は、”ビフォー・コロナ”とは全く違う世界ですし、これから訪れる”アフター・コロナ”は、”ビフォー・コロナ”だけでなく、”ウィズ・コロナ”とも違う世界のはずです。

人々のニーズが変化し、それに合わせて企業や政府官公庁も変化しなければならず、そこで働く人に求められる能力も今までとは異なるでしょう。将棋の技術的なトレンドも社会の変化に合わせてこの2~3年で大きく変わると予想しています。(将棋の先生的にはこれに一番興味があります 笑)

そのように大きく変化している環境では、”アフター・コロナ”に向けて先回りして完璧な自分を作り上げる、という姿勢よりも、その時々の現実解(最善解は存在しないので)を出しつつ改善し続ける、という姿勢の方が精神的に負担がかからず、きっと再び起こるであろう5~10年後の更なる変化に適応しやすいのではないか思います。

この教室も先月4月にオンラインの教室に大きく方向性をシフトしました。1か月経ちようやく軌道に乗り始めたところで、これから少しずつ発展させていきたいと考えていますが、もし状況が大きく変わり環境に適応できないと判断した場合は、ためらいなくクローズするという潔さを常に頭の片隅に残しておきます。

将棋を上手になりたいという子供の思いに応えること、将棋を通して他の分野にも転用可能な物事の考え方を伝えること、というこの教室の核は変えず、環境の変化にいつでも適応できる”しなやかさ”を大切に、これからも教室を運営していきます。

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