一局の重み(実践篇 対局中の思考)

対局前の準備、対局中の思考、対局後の振り返りの質を高めて、一局をもっと大切に扱いましょう、という話の続きです。前回は、対局前の準備について書きました。今回は、対局中に考えたことについて書きたいと思います。

知人とやっている研究会は指定局面戦で持時間は20分60秒。10月の指定局面は、角換わり腰掛け銀の最新形(私が後手番)でした。ここは先手の分岐点で、激しく攻める手(45桂など)と守りを充実させる手(88玉)がありますが、相手は88玉と上がりゆっくりとした展開になりました。

しばらく前例通りに進み、ここで一つの疑問が浮かびました。

「常識的には8筋の飛車先の歩を交換するところだけど、もし交換しなければどのような展開になるのだろう?」

対局中に大切にしているのは、どれだけ念入りに準備したとしても、準備したことが確からしいかを再度確認したり、準備以外の考え方や手を模索すること。人間は毎日少しずつ変化しており、その日、その場にしかない感性があるはずなので。

ここでは、86歩 同歩 同飛 87歩 77桂成 同銀 81飛 86歩と進めるのが常識的な順ですが、87金の形が7~9筋までカバーしているよい形なので、8筋を交換せずに単に77桂成として、将来、持ち駒が増えた時に7、9筋の反撃を狙う指し方もあるのではないかとふと思ったのです。

2~3分読み進めてみると、後手が持ち駒を入手して7、9筋を反撃する展開にはなかなかならないこと、好位置の46角に見合う後手の主張が見いだせないこと、から見送ることにしました。

となると、ここで使った時間と考えたことは目の前の一局の勝敗には全く関係ありませんが、このような営みにこそ価値があると考えています。一見無駄に思える考えや読みの蓄積が、将来出会う未知の局面でより確からしい答えを出す力につながる、からです。

数手進んで、この対局の数日前に行われた竜王戦第一局と同一局面になりました。竜王戦は24桂でしたが、相手は47銀と変化してきました。有効な手が多く進展性がある先手に比べて、後手にはプラスの手が少ないのを見越した一着です。

ここで残り時間の大半の7~8分を使いましたが、よい構想が思い浮かびませんでした。
本譜は、61飛 56歩 52銀 35歩 同歩 同角 34歩 46角 53銀と働きの弱い63銀を玉に近づける指し方を選択しましたが、本意ではありませんでした。

最近の将棋の考え方に、”金銀をバランスよく配置して自陣全体を囲いにする(自玉がいろいろな位置に逃げれるような可能性を残しておく)”、があります。しかし、本譜の指し方は、”金銀を玉の近くに集結させて固めておく”、という古い考え方です。

もちろんこの指し方でも一局なのですが、過去に幾度となく経験した考え方、指し方です。成長のためには、新しい考え方や指し方にどんどんチャレンジしていくことが必要なので、やりたかった新しい価値観の具体的な指し方がわからなかった事に後悔しながら対局していました。

駒組みが飽和して、先手が仕掛けを模索する局面で、先手は36桂と打開を狙ってきました。次に24歩とされると後手はつらいので35歩と反発し、24歩 36歩 23歩 37歩成 同角 27歩で、先手のと金と後手の桂2枚得の分かれになり、最終盤まで難しい局面が続きました。

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今回は、対局中の思考について書いてみました。目の前の一勝を得るためだけでなく、未来の一勝や棋力向上のためにも時間や思考のリソースを使うのが大切だと考えています。

次回はこのシリーズの最終回、対局後の振り返りです。(続く)