論理思考

名著「四間飛車を指しこなす本1,2」の”まえがき”に、
対急戦:相手の力を利用して投げる(カウンター)
対持久戦:自分から技をかける(先攻)
が基本的な戦い方だという記載があります。なぜその戦い方が良いのか?理由を答えなさい。

中学受験のシーズン真っ只中。ある私立中学校の問題に刺激を受けて、私自身で一問作ってみました。今回のブログでは、その解答例を書きます。

※初めにお断りしておくと、このような問題に100%正しい解は存在せず、問われているのは筋道立てて考えられているか否か、つまり、きちんとしたロジックが存在するか否かです。論理的に考えることは将棋を上達するためにとても重要なスキルです。


「玉の固さ」「主導権」「進展性」
この理由を説明するために、上記3点の考え方を活用します。

「玉の固さ」は、形勢判断4要素(駒の損得、駒の働き、玉の固さ、手番)の1つに位置付けられ重要です。
選択した囲いの強度のことで玉の安全度とも言い換えられ、相手と比較して大きく差を付けられないことがポイントです。

居飛車急戦の船囲い、持久戦の穴熊、振り飛車の美濃囲いの固さを比較すると、

船囲い ⋖ 美濃囲い ⋖ 穴熊

という関係性になっています。
(現代将棋では、玉の固さに広さで対抗する、という考え方もあり、むしろその方が主流とさえ言えますが、話が複雑になりますし、こどもの将棋の勝敗には全く関係がないのでここでは割愛します。)

次に「主導権」とは、自分から攻める=自分から局面を動かすことのできる権利です。
一般的に、主導権は角筋が通っているか否かで決まります。角筋が通っていれば自分から動くことができ、角筋が止まっていれば自分から動けません。
(攻めるためには、大駒の飛と角を両方活用しなければいけませんが、どんな戦法でも飛筋は基本的に通っており、角筋が通っているか否かで自分から攻めることができるか否かが決まります。)

【参考記事】

ここで重要なのは、「玉の固さ」と「主導権」を両方相手に上回られては失敗で、どちらか上回っている状態を目指す、ということです。

例えば、

対急戦では、主導権は角道が通っている居飛車にあるものの、玉の固さでは振り飛車の美濃囲いが居飛車の船囲いよりも上です。

対持久戦では、玉の固さでは居飛車穴熊が振り飛車の美濃囲いよりも上回っているものの、振り飛車のみ角筋が通っており主導権は振り飛車にあります。

振り飛車が避けなければいけないのは、居飛車の持久戦志向に対して漫然と組んだこのような図で、「玉の固さ」「主導権」ともに居飛車の方が上です。居飛車の方が玉が安全で、かつ、居飛車から攻められるのでは勝ち味が薄いのは当然です。

これが振り飛車が対持久戦に先攻を目指す、詳しく言えば、居飛車の角道を止めて振り飛車の角筋を通して主導権を握るように戦う理由です。

更に理解を深めるために、対急戦をもう一度を考えます。

定跡では、居飛車から攻めを待って振り飛車が反撃をするという流れになっていますが、それは、振り飛車が待ち続けているうちに「玉の固さ」が逆転しない(居飛車に「玉の固さ」も「主導権」も両方渡さない)ことが前提になっています。振り飛車は、本当に待ち続けて問題ないのでしょうか?

その解決に必要な考え方が「進展性」です。

「進展性」とは陣形、特に囲いを発展させていける可能性のことで、振り飛車の美濃囲いは、高美濃、銀冠と次々と発展していけるのに対して、居飛車の船囲いはこれ以上囲いを発展させることはできません。つまり、お互いに待ちを続けていくと、振り飛車だけ囲いの性能が高まり「玉の固さ」の差が広がっていきます。以下は、居飛車が仕掛けずに4手ずつ囲いを発展させた局面ですが、居飛車の船囲いの固さはほとんど変わっていない、むしろ退化しているのに対して、振り飛車の美濃囲いは高美濃になり、厚みが増しており、囲いの性能の差が広がっています。

以上から、対急戦では振り飛車が待つだけで居飛車の攻めを催促しており、居飛車は仕掛けるしかなく、振り飛車は待っていても自然に戦いが起こる、という流れになっています。

この「進展性」の考え方は、対持久戦にも使えます。



この局面から、銀冠に組む得よりも、松尾流穴熊に組む得の方が大きく(つまり、居飛車の方が進展性がある) 組み上がった局面は「玉の固さ」「主導権」ともに居飛車が上回っています。つまり、振り飛車は仕掛けるしかなく、△5五歩で自然に戦いが起こります。これも、対持久戦の時に、先攻を目指す理由です。


解答例は以上です。

これは理屈っぽすぎると思いますが…笑
高段者(三段)以上になったら、このような感じで、自分なりのロジックを持って将棋を指してほしいですし、自分なりのロジックがあれば上達が加速するはずです!