振り返りの目的と具体例

将棋会館道場の初段くらいの棋力になるまでは、詰将棋、寄せ/凌ぎ、囲い崩しの手筋を繰り返し解き、得意戦法の定跡を理解して、実戦をたくさん指せば自然に上達すると思いますが、有段者になると棋譜を残して振り返り、その振り返りを日々の学習や次の対局に活かしていくというプロセスを加えるのが効果的です。

今回は振り返りの目的と具体例について、お話しします。


「対局して何がわかったの?」

「棋譜を自分で振り返ってみると、終盤が課題だとわかったので終盤力を強化します。」

大会や研修会の後で、受講生に質問すると、このような答えが返ってくることがよくあります。棋譜を残して、振り返りをしたことは素晴らしいですが、この振り返り方では不十分だと考えています。

なぜなら、振り返りは日々の学習や次の対局に活かしていくためのもの、つまり、行動に反映できるものでなくてはならないからです。”終盤力の強化”と言っても、そのスキルや練習法は多岐に渡るため、日々の練習で何をすればよいのかわかりませんし、次の対局で、何に気を付けて指せばいいのかもあやふやです。

終盤が課題だったとして、その原因を明らかにする必要があります。

・時間の使い方
・技術不足
 -読みの力(速さ、正確さ、広さ、深さ)
 -形勢判断の正確さ
 -定跡や手筋の知識不足
・メンタルの弱さ
 -過度の緊張
 -相手との相性
 -苦手な戦型/指し方

など、さらに詳細に考えていき、原因を追究します。

例1
時間の使い方が原因で、普段は15分切れたら1手30秒で指すことが多いので、研修会の30分切れたら1手60秒に対応できなかった、という背景があったとします。その場合、考えを深める前に次の1手を指していることが容易に想像できます。

よって、次の対局で気を付けるべきことは、形勢に差が付きやすい局面(=駒がぶつかった局面、玉を寄せる/凌ぐ局面)で手を止めて時間を使い、読んだ手が本当に大丈夫なのか確認すること、他にもっと良い手がないかを探すこと、が考えられます。

そのための練習方法としては、棋譜並べで上記のような局面をピックアップして、5~10分程度使って考えを深める練習をする、練習対局の時間配分を意識的に変えて重要な局面で5分程度考えてみる、詰将棋で数分考えなければ解けない問題に取り組む、などが考えられます。

例2
過度の緊張が原因だったとします。メンタルの問題は、個々で異なるので一概に言えませんが、、、

・速度計算を正確に出来るようにして、単にその理論が盤上を支配しているだけであることを知る=緊張してもしなくても盤上の状況はいつも同じであることを知る、
・緊張するのは自分だけでなく相手も同じであることを認識する=相手も同じであれば緊張が和らぐ。
・たくさん練習して(もちろん何をやるかは具体的に決める必要有)、ここまでやったんだから大丈夫!と自身に言い聞かせる。

のような対策が考えられます。


このように科学的に将棋に取り組めば、間違いなく上達のスピードは加速します。上達の一助になれば幸いです。