定跡を学ぶ真の目的は、手順を覚えることではなく、因果関係を押さえて、手を改善するプロセスを理解することです。その目的を踏まえると、ほぼ100%のこどもにとって、現代の難解な定跡よりも、過去の基本的な定跡の方が有益であるケースが多い、が持論です。#かむがふTips
— かむがふ (@KamugafuShogi) October 25, 2022
先日このようなTweetをしたところ、たくさんの反響をいただいたので、今回のブログではこの話に補足したいと思います。
物事を上達するプロセスに守破離があります。
守=まずは先人が長い年月をかけて作り上げた型に徹底的に従う
で、真似ることから始めよ、という教えなのですが、真似る対象を学ぶ時に、大きく分けて2種類の頭の使い方が存在すると考えています。
それが手暗記と意味理解です。
手暗記とは、文字通り、定跡の手順、手筋を覚えることです。
将棋はスポーツとは異なり、与えられた条件、つまり初形や駒の性能は誰であっても同じ(スポーツはそれぞれ体格や筋力が違う)なので、手を暗記すればそれなりに指せますし、ゲームの特性上、終盤が強ければ、たとえ序盤が支離滅裂でもそれなりに勝ててしまいます。
低学年や級位者のうちは、頭の発達や棋力が追い付かないので手を覚える学び方、パターン認識で次の一手を決めれば全く問題ありませんが、高学年や有段者から高段者、研修会員になると思考力が問われ、手を覚えることに加えて意味の理解が必須になってきます。
では、意味を理解するとはどういうことかと言うと…
これは四間飛車対斜め棒銀の定跡です。
ここから、▲3四歩 △同銀 ▲3八飛 と攻めるのが、最もシンプルな仕掛け方です。
ここで△4五歩が技をかけられる瞬間に技をかけ返す、切り返しの一手で振り飛車の常套手段です。
△4五歩 ▲3三角成 △同飛 ▲2二角 △4六歩 ▲3三角成 △同桂 ▲3四飛 △4三金
が定跡の進行で、飛を逃げる場所が難しく、振り飛車がやや優勢とされています。
そこで、居飛車は▲3四歩 △同銀 ▲2四歩 △同歩 ▲3八飛 と2筋の歩を突き捨てる工夫をします。
先ほどと同様に
△4五歩 ▲3三角成 △同飛 ▲2二角 △4六歩 ▲3三角成 △同桂 ▲3四飛 △4三金
と進めてみると、▲2四飛 が2筋を突き捨てた効果で飛が捌けて居飛車が優勢です。
では、この手順で居飛車の優勢が確定しているかと言えば、そうではなく…
△4五歩 ▲3三角成 △同飛 ▲2二角 △4六歩 ▲3三角成の時に、△3七歩 ▲同飛 △3六歩
と2筋の突き捨てで得た歩を活用する手(2筋の突き捨てを逆用する手)があり、難解な終盤戦です。
つまり
① 最もシンプルな仕掛け方は、飛を活用できず居飛車がやや不満
② ①の変化を踏まえて居飛車は2筋を突き捨てる工夫
③ 振り飛車は②の居飛車の狙いを回避して、2筋の突き捨てを逆用する工夫
というお互いの狙い、課題を踏まえた対策、それに対するさらなる課題と対策…のような物語になっています。
意味理解とは、この物語=因果関係と手を改善していくプロセスを理解することです。
現代の定跡の問題点は、内容が高度になりすぎており、この物語を捉えるのが非常に難しいことです。(なので、↑のサンプルも20年前から存在する定跡で説明しています。)
自ら棋力を向上させる力を養う=(序盤、中盤、終盤に関係なく)因果関係と手を改善していくプロセスを自分の頭の中でつくる
と同義だと考えており、意味をよく理解せずに最新形をなぞるよりも、意味を理解できる指し方を実践した方が、伸びしろが大きくなると考えています。そして、現代の定跡を使おうが、昔の定跡を使おうがこどもの将棋の勝敗には全く影響はありません。
余談ですが、藤井聡太さんがふみもと将棋教室で幼少期に取り組んだのは、詰将棋に加えて、「駒落ち定跡」と「羽生の頭脳」だったと認識しています。両方ともにこの頭の使い方を学ぶのには最適な本で、将棋の頭の使い方が養われたと考えています。
どうしても現時点の優れているとされている指し方を覚えればよい、という考え方に走りがちなので、このような視点も入れて、日々の学習に取り組んでいただくことをおススメします。