8月上旬から始まった「第5回名古屋城こども王位戦」が先週末に終了しました。大会に参加された皆さま、大変お疲れさまでした。
コロナ禍でリアル大会が開催されない中、大会でこども同士の対局を観る機会をほとんど持てず、こども将棋界で現在進行形で起こっていることを感じにくくなっているので、この機会に時間が許す限り観戦しました。
多くの子の対局を観戦していると、勝ち抜く子とそうでない子の特徴(違い)が大まかに見えてきました。今回のブログでは、その中で2つ紹介したいと思います。(あくまで大まかな傾向で、全ての子に当てはまるわけではありません。ご承知おきください。)
1. 引き算で考える
「3手の読み」「棋は対話なり」
将棋に触れたことがあれば、一度は耳にした事がある言葉だと思います。では、これらの言葉が意味するのは何なのか?
それは、自分のことだけでなく”相手のことも考える”です。
ご存じの通り、将棋は1手ずつ交互に指し、局面や形勢が目まぐるしく動き、その結果、勝敗が決します。この話を、以下のシンプルな式で表すことができます。
自分の手の価値 - 相手の手の価値 = 形勢の増減
(勝敗は、1手毎の”形勢の増減”が積み重なった結果)
どれだけ自分が鋭い手を指したとしても、相手にそれ以上に鋭い手で返されれば、差し引きマイナスで形勢が悪化しますし、自分が相手玉に迫るゆっくりした手だったたとしても、相手に自玉に迫るそれ以上早い手がなければ、差し引きプラスで形勢は好転します。
つまり、自分の手のみ考えて次の一手を決めるのではなく、自分の手だけでなく相手の手も考えた上で次の一手を決めるのがポイントなんですね。
言葉だけでは、伝わりにくいと思いますのでサンプルをご紹介します。
振り飛車対居飛車急戦の中盤戦で、△7五同飛と双方が大駒を捌いた局面です。
次に、△7七飛成を狙っており、振り飛車は▲6六角と7七の桂を守りながら、飛香両取りで切り返します。以下、△7六飛 ▲1一角成と進んだのが問題の局面です。
実戦はここで△8六飛と指しましたが、相手の手の価値を考慮に入れてない甘い手でした。この局面は、先手は既に△1一角成と「馬」+「香得」の戦果を挙げています。なので、後手もこの手番を活かしてそれに見合う戦果をすぐに挙げなければ形勢のバランスを保てませんが、△8六飛はそれ自体に戦果がなく、次に△8九飛成としたとしても飛が龍になっただけで大きな戦果ではありません。
具体的な手順で考えると、
△1一角成 (馬+香得) ▲8六飛(戦果なし)
△××(攻めの戦果) ▲8九飛成(龍)
△××(攻めの戦果)
つまり、既に居飛車は、相手に馬+香得という戦果を与えているのに、龍という戦果をあげるうちに、さらに二手も相手に価値のある手を指されてしまうのです。
「馬+香得」と「龍」を比べるだけでも、居飛車が損なのに、さらに二手も相手にプラスの手を与えてしまう。これでは局面のバランスを大きく崩してしまうのは明らかです。
例えば、
△1一角成 (馬+香得) ▲8六飛(戦果なし)
△2六香 ▲8九飛成(龍)
△2三香成 (相手玉に迫る)
と進むと、居飛車は龍をつくっただけなのに対して、振り飛車は、馬+香得に加えて、得した香で相手の弱点を攻撃しています。いわゆる一人終盤の状態で、この局面は振り飛車勝勢です。
戻って、△1一角成には、▲2二銀と指すのが良いと思います。
△1一角成 (馬+香得) ▲2二銀
△1二馬 ▲7七飛成(龍+桂得)
となると、振り飛車の「馬+香得」に対して、振り飛車は「龍+桂得」の戦果をあげており、つり合いが取れています。
別の観点では、▲2二銀と貴重な銀を使ってしまうと、居飛車の攻めが遅くなってしまうと思うかもしれません。確かに、居飛車の攻めは遅くなりますが、▲2二銀と守ったことで、振り飛車の攻めも遅くなっています。ここでも、自分の立場のみを考えるのではなく、相手の立場も考慮する“引き算”で考えると、つり合いが取れていることがわかります。
このように将棋の上手な人は、常に自分と相手との比較で考えています。
そんなの当たり前じゃん、と思われるかもしれませんが、このロジックで将棋を指している子は本当に少ないです。相手の手を考える前に手が動いたり、自分の手を考えるのに手一杯だったり、相手の手を考えているつもりでもそれは自分都合の手(将棋用語で”勝手読み”)だったり、するケースが多いです。
逆に、このロジックで将棋を指すことさえ出来れば、それだけで上位進出は間違いありません!と言っても言い過ぎではありません。それくらい、重要かつ身に付けるのが難しい技術です。
2, 時間の使い方
時間の使い方は勝敗に大きく影響します。
将棋で安定して勝つには、形勢に大きな差がつき勝敗に直結する局面で丁寧に時間を使い、上記のように双方の損得を考慮した手を指すのがポイントです。(稀に、早指しで手が急所にいく子もいますが、相当な練習量とセンスを要し、万人には真似できません。)
対して、反射的に見えた手(自分の手)をほぼノータイムで指して、取り返しがつかない局面になって初めて長考する場面が散見されました。手が勝手に動いてしまう、どこで何を考えればいいのかわからない、その時間の使い方では勝つのが難しいことを理解できていない、など原因は様々だと思いますが、それでは安定した将棋を指すのは難しいです。
参考にこの話に関連するブログもご紹介します。
やはり、大会を観戦すると様々な気づきがあります。これからのオンライン勉強会やオンライン対局、リアル教室などに反映できるよう努めます。