一局の重み(実践篇 対局前の準備)

前回のブログでは、対局前の準備、対局中の思考、対局後の振り返りの質を高めて、一局をもっと大切に扱いましょう、と言う話をしました。今回は実践篇として、私のプライベートの研究会の対局から、その具体例を書きたいと思います。

この研究会は、アマ強豪の知人と計4人で毎月1回かれこれ1年以上やっており、この10月からルールが若干変わり指定局面戦になりました。そして、初回の指定局面は角換わり腰掛け銀の最新形で、私が後手を持つことになりました。

この教室を始めてから、アマ大会で勝つための研究より、小中学生の大会で機能する戦法や手の研究の方に比重を置いているので(同じ将棋でも、違うゲームをしているのかと思うくらい勝敗決定要素が異なる)、これを機に最新流行形を一から勉強することにしました。

①ファーストオピニオンは自分自身の考え

まず初めにしたのは、棋譜や定跡書やAIなどの情報、道具に頼る前に、指定局面を自分の頭で考えてみる事でした。実際の対局では、どんなに研究していても未知の局面を迎え、頼れるのは自分自身のみという状況が必ず発生するので、日頃から、ファーストオピニオンは自分自身の考え、の習慣を身に付けるのは重要だと思っています。(高段者以上を目指すのであれば絶対)

情報をインプットする前に、ありのまま、自分の感性のみに頼って局面を見てみると、この局面では大きく3つの展開が考えられると思いました。

1.先手が先攻する
(1)▲45桂
(2)▲35歩 △同歩 ▲45桂
など

2.先手が一手囲いを整備し、後手が先行する
▲88玉 △65歩

3.先手が一手囲いを整備し、後手も一手待って、先手が先行する
(1)▲88玉 △52玉 ▲45桂
(2)▲88玉 △31玉 ▲35歩 △同歩 ▲45桂
など

さらに、研究会の対局で持つ後手の視点で考えてみると、3は捨てるべきではないかと思いました。

先手の立場で見ると、玉が入場して次に攻めたい局面でさらに一手待って、わざわざ万全の状態で攻めさせるのは、先手にとってありがたいこと、さらに、相手が万全な状態で受けに回る展開は自分が指したいと思わないこと、

相手の攻めを待ち続けるのは、先手、後手に関わらず相手にちょっかいを出して敵玉に傷を作っておく、と言う現代将棋のトレンドに合わないこと、

そして何より、後手は、2を採用すれば3の局面は迎える可能性はなくなること、

が理由です。

将棋の手は膨大すぎて全てを追うのは難しいので、このように、自分の立場だけでなく相手の立場にも立って考える、自分の琴線を大切にする、トレンドを押さえる、などの何らかの軸で手を絞っていく作業が欠かせないと思っています。(もちろん、3で一局の将棋を創る指し方も存在します。)

そして、1,2のそれぞれの変化をもう少し先まで読んでみて、指定局面から実現可能性のある局面を20くらい作り、それぞれの局面で自分なりの結論を出しました。

②棋譜、定跡のインプット

次に、棋譜や定跡を調べることにしました。どんなに時間をかけたとしても、1人の思考の深さや広さは限られているので、他(人やAI)の考えや手を知り、自分の考えで間違っていた点や気付かなかった点を把握するのは重要です。

そこで、①の(1)(2)について、まずはプロ棋士の棋譜を時系列に20局程度調べました。そして特に気になった変化について、floodgate(AI同士の対局場)の棋譜を30局程度とC-book(千田翔太プロ作成の定跡ファイル)を調べました。その結果、指定局面から考えられる変化図は、約20から約50になりました。

棋譜を調べる時に重要なのは、指定局面からの中盤の変化だけでなく、その先の終盤戦を戦うコツも合わせて押さえる事だと思っています。序盤、中盤、終盤を分断するのではなく、全体の流れで捉えるのがポイントです。例えば、これは指定局面から想定される図で、ここから▲63銀 △86歩 ▲62銀不成 △87歩成 ▲同金 △86歩 ▲同金 △55銀 ▲87歩、と強く攻め合うのが一つの変化ですが、後手玉は33と31に逃げ出すルートがあり後手玉は意外に耐久力があるので、この先の終盤で31玉などと早逃げして安全に指すより、その一手を攻め合いの流れのままに妥協せずに攻めに使って踏み込んで指すのが、この局面の終盤のコツという感触を得ました。

③再び自分の頭で精査する

最後に、約50の局面を自分自身の頭で精査しました。

最終的に指すのは自分自身なので、ピックアップした局面や手順が、自分が指したいか、自分が良い手だと思うかどうかなど、自分の琴線に触れるかどうかがポイントだと思っています。例えば、これは指定局面から想定される均衡の取れた図で、ここでは、△31玉、△63銀、△86歩、△95歩などが考えられます。しかし、

△86歩は以下、▲同歩 △同飛 ▲87歩 △81飛 ▲46角 △63金 ▲24歩 △同銀 ▲55銀左 のように研究だけで勝敗が決まりがちな直線的な将棋になるため避けたい、△95歩は自分の感覚では後手の無理攻めに映る、ため△86歩と△95歩は除外することにしました。

そして、最終的に想定される変化図を約50から約30まで絞り、それぞれの局面の自分なりの結論とその後の終盤戦の指し方のコツを整理しました。

 

…と、事実を忠実に書いていたら対局前の準備の話で終わってしまいました。。。懲りずにお付き合いいただければ幸いです(笑) (次回の対局中の話に続く)