序盤の指導方針について

教室を運営する中で、序盤についてどのレベルまで言及するのか、いつも頭を悩ませています。

今週、オンライン対局や棋譜を見ていて、序盤について悩みに悩んだので、このTweetに補足する形で私の指導方針を書きたいと思います。


序盤は負けないための鎧、終盤は勝つための剣

まずは将棋の特性からお話しすると、将棋はゲームが進めば進むほど手の価値が高まります。手の価値とは、勝敗影響度と言い換えることが可能です。

このグラフからわかることは、

序盤の失点は終盤で十分に取り返すことができるので、最も注力すべきなのは終盤力の強化

で、「序盤は負けないための鎧、終盤は勝つための剣」という位置付けです。

序盤は最低限のポイントが押さえられていれば問題なく(野球で言えば、5回が終わって0-2くらいの不利であればOK) この教室では、必要最低限にしか言及しないように心がけています。

序盤と終盤のつながり

序盤、中盤、終盤という言葉を聞くとそれぞれは別物と捉えがちですが、実は全てつながっています。

序盤でポイントを押さえた指し方をすると、中終盤に必ず良い手が眠っていますし、序盤で論理立てて指せていないと、仮に藤井聡太さんやAIを連れて来ても良い手は見つかりません。

一方で、序盤と終盤では、求められる要素が全く異なります。序盤は論理や暗記の要素が、終盤は計算の要素が強いです。学校の勉強で言えば、序盤は国語や社会、終盤は算数の世界です。

ここで難しいのは、序盤と終盤が両方得意という子はほぼ皆無で、序盤が得意な子は終盤が苦手、終盤が得意な子は序盤が苦手というパターンがほとんどなことです。

そうなると、終盤が得意な子は序盤で論理立てて指すのがとても難しく、中終盤で盤上にいい手があまり落ちていないので良さを活かし切れていない、という状況がよく起こります。(逆に、序盤が得意な子は、中終盤で盤上にたくさんいい手が眠っているのになかなか気付けないという状況もよくあります。)

そうは言っても、序盤が苦手な子が急に序盤をしっかり指すのは難しく、序盤の精度をどの程度求めるのか、大変難しい問題です。結論は、個々の終盤力で決まり、序盤で大きく失点をしていても、終盤で辻褄を合わせて勝てていれば、序盤の問題は放置(年齢を重ねたり、棋力が上がれば自然に身に付くという判断)、という選択肢もあります。

こどもが理解できる内容

現代は、本やWEB、Youtubeなどでプロの共通見解や、AIを活用することで評価値上での最善手に容易にアクセスできます。しかし、その手や内容に興味を持って学ぶのはとても良い事ですが、自身の棋力や棋風に照らし合わせてその手が機能するのか、は別問題です。

最近よく見るのは、(極端な例ですが) 四則演算ができない子が、高校、大学の数学のような難しい内容を丸暗記しているようなケースです。将棋は覚えてしてしまえば指せてしまいますが、相手に少し変化されると対応できませんし、中終盤で序盤のような高度な手を続けることは出来ず勝ちに結びつくのかはわかりません。さらに、理解するのが難しい内容を覚えてその後の成長につながるのか、疑問に思っています。

なので、この教室では、プロで流行している難しい定跡の話はほとんどしませんし、オンライン対局などで序盤の指摘をする時に、盤上で論理的に正しいかを踏まえつつ、その子のレベルで理解できる内容を提示することを心がけたいと考えています。


結論はなく、私の悩みをつらつら書いただけになってしまいましたが、この教室の序盤の指導方針についてご理解いただければ幸いです。