AI時代の学び方

先週、羽生善治さんの講演を聞く機会がありました。印象に残った言葉をTweetしたら、反響がとても大きかったので、今回はこの言葉の意味を私なりに掘り下げてみたいと思います。

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1.強くなるための全体像の理解

まず初めに思ったのは、羽生さんが”強くなるためには、全体像を理解しなければならない”と考えているのではないかということでした。では、”全体像”とは何でしょうか?

この文脈から推測するに、”全体像”とは、局面における”良い手”と”その理由”(読み、形勢判断、棋理など)だけでなく、”良くない手”と”その理由”も含んでいるのではないかと思います。正解とその理由だけを効率的に学んでも、本当の力が付くとは言えないのではないか、と羽生さんは考えている気がしています。

さらに拡大解釈して、そのような局面毎の良い手、良くない手、それぞれの理由を大量に経験して、このような局面はこういう指し方が良い、なぜなら、、、こういう指し方は良くない、なぜなら、、、と汎用的な知識になって初めて全体像を理解したと言える、とも捉えることができると思います。

2.今なぜ、全体像を理解するのが難しいのか?

この文脈からは、”AI時代に全体像を理解するのは難しくなっている”と羽生さんが考えていることもわかります。

その背景は、今のAIが答え(AIが考える最善手、評価値)を示せても、その手が最善手とする理由や、他の手が最善手よりも劣っている理由は示さないことにあると思われます。AIの提示した手と評価値を見た人間は、その手が良い手である理由を考えたとしても、それが最善手に限りなく近い手がわかっているので、それ以外の手の可能性やそれ以外の手が劣る理由には意識が向かないことが多い。そのような頭の使い方で、全体像を理解するのは難しいのではないか、が羽生さんの主張だと思います。

3.AI時代にどのように学ぶべきか?

講演では、AI時代の学び方について具体的な言及はありませんでしたが、「不屈の棋士」(大川慎太郎著、講談社現代新書 2016)に、以下の羽生さんのコメントが掲載されています。

基本的に自分の頭で考えることが大事だと思っています。ただお医者さんにセカンドオピニオンを求めるような感覚で、この局面に対して自分はこう思うけど、違う可能性がないのかどうか気になる時には(AIを)使うこともありますね。

ファーストオピニオンはあくまで自分自身の考え(良い手、良くない手、それぞれの理由)、それがあって初めてセカンドオピニオンのAIの考えを知る価値が生まれる。そう羽生さんは考えていると思われます。

また、私の考えを正直に書くと、小中学生レベルの将棋でAIは不要だと考えています。AIを使う時間があるのであれば、将棋の基礎体力を高めることに集中した方が、棋力向上や大会の結果、将来の伸びしろに直結すると信じています。

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最後に、AIではなくITの話になりますが、先日の大会の帰り道でこんなことがありました。

帰りの電車内で、その大会で相手にやられて苦慮した作戦の対策を、タブレットを使って検索エンジンで調べて子供達で意見を交わしていました。今風の勉強方法で効率的だとは思いますが、(仮に書いてある内容が確からしかったとしても)それでは物事を一つの側面からしか見てなく、本当の力がつく勉強方法とは言えないのではないかと思います。

棋力が向上したり、大会の結果につながる、勉強方法とは何か?まで考えられるようになってほしい、とその光景を見ながら思ったのでした。(厳しい言い方になりますが、それも含めての実力なので。)